SUSTAINABILITY

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COLUMN :第12回(2012.01.21)

第12回 スウェーデンと日本の教育のどこが違うか?

私は、1980年代から90年代の中頃まで、スウェーデンのストックホルム市の基礎学校(小学校と中学校)と高校で、母国語教育(日本語)の教師をしていました。その経験も交えて、今回、スウェーデンの教育全体についてお話します。特に、スウェーデンと日本の教育のどこが違っているのかというところに焦点をしぼりました。

 

学校も地方分権されている

スウェーデンでは、自治体への地方分権が大変進んでいます。地方自治体は、所得税(市民税)の課税権を持っています。所得税は、全国平均30%ですので、スウェーデンの自治体は財政的に豊かだと思います。そして、市民の生活に最も近い教育、福祉、エネルギー、上下水道、レジャー等を管轄しています。

スウェーデンでは、学校の地方分権も行われました。戦後、貧富の差による学歴差をなくすために、かなり中央集権的な教育が行われてきましたが、80年代にその弊害がでてきたため、教師たちがもっと教育現場、または地方に合った教育方法を選択できるよう、地方分権をしてほしいと政府に要求していったのです。

地方分権されると、教師は国家公務員から地方公務員になりました。それまでは、教育庁が詳細なカリキュラムを作成していましたが、目標の設定のみとなり、必須科目の学習時間数など基本的な決まりはありますが、その目標をどのように達成するか、どの科目を何時間、何年生から始めるかなどの詳細は、地方自治体の教育委員会と学校の校長や教員が協議で決めることができるようになったのです。教育庁が学校庁になり、学校庁が全国テストで全国の学校の学力コントロールを定期的に行うようになりました。

これは画期的なことでした。この改革で、学校が地方文化の特徴を出したり、英語教育やダンスや音楽、野外教育などの特徴を持たせることができるようになったのです。以前は公立小学校のみだったスウェーデンですが、かなり多様性のある学校教育ができるようになったのです。また、もう一つの大きな変化は、学校の校長が、学校の経営者となり経営の経済性も追求されるようになったことです。

また、近年、大きく変わったことは、高校の運営に企業がかなり進出してきていることです。日本では、私立の高校や大学があるので当然と思われますが、長年全て公立だったスウェーデンでは新しいことなのです。残念ながら、中には、企業利益を優先して学校の質に問題が出る学校も出てきて社会的に批判されています。そこで、学校庁が、今後、学校の操業許可の条件を厳しくすると発表しています。

 

1歳から生涯学ぶ


保育園のことを就学前学校(プレスクール)という。1歳から始まる。
(写真提供: ムッレボーイ野外保育園)

 

日本で、今、保育園と幼稚園の合併が議論されています。スウェーデンでも、1970年代から働く女性が増え、主婦が少なくなり、ほとんどの子どもが1歳から保育園に入る時代となったため、1996年に、社会福祉省管轄の保育園が就学前学校(プレスクール)と名称が変わり、文部省の管轄に移行しました。

なぜ文部省の管轄になったかというと、人間は1歳から生涯に渡って学ぶという考え方が基盤にあるからです。そして、保育園を文部省の管轄にすることにより、親の厚生のための保育から、それぞれの子どもの発達と学習を重要視した活動へと位置づけられるからです。 子どもや若者の教育活動は生涯学習プロセスの一部であり、全体として文部省が把握するというシステムにしたわけです。

それから、もう一つ変わりました。以前、就学年齢は7歳だったのですが、1996年に6歳児を対象とした就学前学校クラスという、新しい学校形態が導入されました。これは義務教育ではないので親が選択することができますが、ほとんどの親が、小学校一年生にあがる前の1年間、この就学前学校クラスに子供を入れています。それゆえ、スウェーデンでは義務教育が9年から10年になったとも考えられます。現在、基礎学校を卒業した学生の31%が職業コースに、51%が進学コースの高校に進んでいます。

 

詰め込み教育より、子どもの学ぶプロセスを大切にする教育方法

スウェーデンの基礎学校の学習テンポは、日本に比べるとかなりゆっくりしています。新学期(秋学期)は、8月中旬から12月のクリスマス休暇までで、1月から6月上旬までは春学期という2学期制です。夏休みは6月上旬から8月中旬までなので、約10週間あります。冬は、2月にスポーツ休暇が1週間あります。その他、イースター休暇が4月に1週間、11月に秋休暇が1週間、クリスマス休暇が2週間あります。それゆえ、年間の登校日数は178日と少なく、日本の210日より約1ヵ月短いです。

 さらに、夏休みは学期が変わるので宿題はありません。知識を詰め込む学習より、一人一人の子どもがどのように学ぶのかを見て、そのプロセスを大切にする教育方法を長年導入してきました。それゆえ、2012年からは小学校6年生から成績表をもらうことになりましたが、長年、中学校2年生まで成績表はありませんでした。

スウェーデンでは、先生が教壇に立って皆が一斉に同じことをするという学習の形より、グループで勉強したり、個人で自習をするという学習方法が多く見られます。


算数の時間に一人一人自習をしている様子
(写真提供: 高見幸子)

 

民主主義が学校教育の価値観

スウェーデンの学校で母国語教師をしていた時、教師研修で強く印象に残ったことがありました。それは、教師研修のテーマに入る前に、必ず主催者の挨拶があり、スウェーデンの学校教育の目標と価値観を確認していたことです。

「人は皆、同等の価値があり、平等であること。そして、お互いに連帯感を持つことが大切であること。これらの価値観は、授業にも学校の組織の中にも浸透していなければならない。」

これは、民主主義の哲学となる価値観です。スウェーデンの学校で先生が子どもに接する時に常に脳裏にあり、言葉だけではなく行動にも現わさなければならないと言われている価値観なのです。 

スウェーデンは、民主主義は完璧ではないが、それ以外にできるだけ多くの国民が幸せになる社会を構築する土台となる主義はないと考えています。そのために、民主主義社会の一市民として自分の言動に責任がとれる国民を育てるのが学校教育の目標である、と考えているのです。

それゆえ、子どもが自分で考え、自分の意見が言える人になるよう育てることを目指しています。子どもが、先生やテレビや大人の言うことを、そのまま鵜呑みにするのではなく、批判的に考えられるようにすることが先生の役目なのです。これは、当時の私にとって大きな驚きでした。でも、今、よく納得できます。その成果は、スウェーデンが、世界でも有数な民主主義の社会を築いていることに表れているからです。

 

人生のやり直しがしやすい学校システム

スウェーデンの基礎学校も高校も大学も授業料は無料です。ただし、大学の場合、教科書は有料です。また、18歳で成人をすると、親には扶養義務がなくなります。それゆえ、親宅から大学に通えない場合、生活費は子どもが自分で支払うことになります。大学教育は子どもが自分で自分に投資をするというがスウェーデンの常識なのです。それゆえ、まだ、将来、何になりたいか分からない高校生は、大学に行かず、働いたり、海外旅行をしたりします。そのため、高卒での大学進学率は日本よりずっと低いのです。

その代わり、将来、今の職業で自立をするのが難しくなったとか、人生の途中で、自分はどうしてもこの仕事に就きたいと思うと、やり直しが比較的容易にできるシステムになっています。例えば、私の娘は新聞記者でしたが、数年前30歳で失業してキャリアを変える決心をしました。そして、医者になることを決心すると、大学の医学部に入学を申請するための準備を始めました。高校で取得した単位が社会科学系だったので、大人の高校(高校の科目をもう一度勉強して大学入学に必要な単位をとることができるシステム)で自然科学の科目(数学、物理、化学、生物)の単位をとり直しました。

それから、全国一斉の大学入試を受けました。スウェーデンの大学は、全て国立です。その入試の点数か、高校の成績表のどちらか良い方で、どの大学に入れるかが決まります。娘は、希望するカロリンスカ医学大学に無事合格しました。


カロリンスカ医学大学の研究所
(写真提供: 高見幸子)

 

この、大人のための高校の授業料も医学大学の授業料も無料です。学生は生活費と教材のために、国のローン制度を活用します。毎月9,000クローナ(約12万円)をローンとして借りますが、その内の2,000クローナは返す必要がありません。

このように、1歳から生涯、大きな学費の負担がなく学ぶことができるのが、スウェーデンの教育の良いところだと思います。税金が高くて貯金はできませんが、子どもの学費のために貯金をする必要はないのです。また、私も、定年退職をした後でも、大学で勉強できると考えると、スウェーデンの税金の高さに納得をしています。

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