SUSTAINABILITY

私たちイーオクトが考える「サスティナビリティ」とは、難しいことではなく、
誰もがただほんの少し、日々の暮らしを、消費行動を見直して、行動を変えること、進化すること。

COLUMN :第9回(2011.08.01)

第9回 医療における環境問題とは?(2)
カロリンスカ大学病院 環境に配慮した医療をリードする

スウェーデンの病院は薬の臭いがしない

スウェーデンの病院を視察したある日本人が、「スウェーデンの公立病院には驚きました。薬臭くない、混んでいない、恐くないと3拍子揃っていて、受付や待合室は、お洒落なスポーツクラブのようでした。」と感想を語っていました。

取材のために、まず、ストックホルムの※ランステイング環境部に電話をして、環境対策の進んでいるランステイングの病院と環境部の担当者を紹介してもらいました。

※ランステイングとは:広域行政のこと。スウェーデンの医療はこのランステイングの管轄にある。

紹介してもらった二つの病院の一つがカロリンスカ大学病院です。

カロリンスカ大学病院は日本でも名前を知っている人もあると思い、早速、カロリンスカ大学病院に連絡をしました。

 


スウェーデンで最も有名なカロリンスカ大学病院正門

 

環境監査担当者のStina Delden(スティーナ・デルデーン)さんと、環境部長のGustav Eriksson(グスタブ・エリクソン)さんがインタビューを快く引き受けてくれました。

今回、医療における具体的な環境対策を知るために、スウェーデンで最も著名なカロリンスカ大学病院を取材しました。まず、最初に「スウェーデンの病院ではなぜ薬の臭いがしないのか?」聞いてみました。

「病院の床の掃除に消毒液を使っていないから。」という答えでした。そして、消毒液を使わない理由は、消毒薬が病院で働いている人や患者の健康に良くないからだと答えました。

彼らが健康と環境をシステム的に捉えており、人命を救うために環境への負荷があっても仕方がない、と特別扱いに考えそうな薬や化学物質の問題に正面から取り組んでいる姿が印象的でした。

 


環境推進部の専門職員5名 左が環境管理者のスティーナさん、右が環境部長のグスタブさん

 

カロリンスカ医科大学とノーベル賞

カロリンスカ医科大学が有名なのは、ノーベル賞の生理学医学部門の選考委員会が、ストックホルムのカロリンスカ医科大学の中にあるからです。

カロリンスカ医科大学は、スウェーデン最大の研究機関でもあります。カロリンスカ大学病院は、カロリンスカ医科大学の教育医療機関として提携しています。

それゆえ、国内の病院の中でも規模が大きく、世界的にも著名な病院です。病床数は1,680、医者、看護婦、職員の数が15,000人、研究員が2,500人という規模です。

カロリンスカ大学病院には、二つ病院、カロリンスカ医科大学の側にあるSolna病院と、ストックホルムの南部のHuddinge病院があります。


カロリスカ医科大学はノーベル医学賞の受賞者を決める


カロリンスカ大学病院の受付

 

お洒落なカロリンスカ大学病院の環境部のオフィス 

環境部は、Huddingeにあるカロリンスカ大学病院の中にあり、病院にあるとは思えないほどオシャレで素敵なオフィスでした。

環境部の専門職員は5名ですが、7つの病院の部署にそれぞれ1人ずつ環境コーデイネーターがいて、その下に600人の環境情報担当者がいます。病院の医者、看護婦、職員で15,000人もいるため、全部署と全員が参画することが環境対策を成功させるために欠かせないため、環境マネージメントシステムのISO14001は重要なツールとなっています。

ちなみに、カロリンスカ大学病院は、世界で最初にISO14001の認証を取得した病院です。

 

カロリンスカ大学病院の環境対策の成果

カロリンスカ大学病院は、2010年に挙げていた19の環境目標のうち9つを完全に達成しました。そして、達成できなかったほかの目標も改善の方向に向かっています。特に今回、環境部が高く評価していることは、化学物質に関する対策で、2010年に危険な化学物質の購入を40%削減しています。

また、仕事場での化学物質使用におけるリスクを回避するコントロールも良好です。2011年の環境目標を達成するためには、今のテンポを落とさないことだと言っています。特に、笑気ガス排出量の削減、危険な化学物質の使用廃止、処方箋を書く医者や職員の環境教育、そして、製品のグリーン購入促進にフォーカスして取り組むことが必要だと語っていました。

下記に2010年度のカロリンスカ病院の環境報告書の中から、具体的な対策と成果を抜粋して紹介します。

 

具体的な対策と成果

地球温暖化への負荷の削減

カロリンスカ大学病院の2010年の目標は、(1)笑気ガス排出量の削減、(2)エネルギー使用の削減と(3)病院の車の化石燃料使用の削減の3つでした。

  1. 笑気ガス排出量の削減 2011年目標 2002年比で75%削減
    スウェーデンの病院の地球温暖化対策の中では、笑気ガス排出量の削減が重要視されています。スウェーデンでは、出産の鎮痛のために笑気麻酔が使われるのが通常です。
    笑気ガスは、二酸化炭素の300倍の地球温暖化作用があるため、削減対策が重要視されています。
    2010年に2002年比で約70%削減を実現、2011年までに75%の目標達成にかなり近づいています。削減方法の一つは、使用済笑気ガスを回収して、特別な機械で破壊するというものです。
    (下記のグラフ図は、2002年比での削減推移が表示されています。) 


  2. エネルギー使用の削減 2011年までに2000年比でエネルギー使用量を削減する
    2010年度は、2000年比で11%の削減を達成しています。対策としては、換気設備の熱を回収して暖房に再利用、換気制御システムの改善、病院の照明を省エネ蛍光灯型の電球に切り替えを実施しています。また、働く人たちの省エネ意識を高める啓発活動もしました。それにより、コンピューターや設備の無駄な使用が減ったことも削減に貢献したそうです。カロリンスカ大学病院の屋根には、太陽光発電のパネルもあります。
  3. 病院の車両における化石燃料の使用の削減
    2010年、病院のエコカー所有率は79%です。「エコカー」は、国の定義で、エタノール、バイオガス、ハイブリッドの他に、ディーゼルやガソリン車でも低燃費車もエコカーになります。カロリンスカ大学病院では、バイオガスで走る救急車が1台あります。

薬品と化学物質の環境負荷を最小限にする

2010年の目標は、薬品と化学物質の環境負荷を減らすことでした。対策としては、使用を削減、下水処理場で分解されず川や湖の水に残留する薬を減らす、処方箋を書く医師の教育、薬品処置の安全対策、抗生物質(フルオロキノロン類)の処方量の削減が挙げられます。

下記のグラフは、抗生物質使用量の削減推移を表しています。

2010年の目標値までには達成しなかったそうです。



カロリンスカ大学病院は、環境に有害な薬の処方を減らすための重要なステップとして、処方箋を書く医師が薬の環境への害について知識を持つことが重要と考えています。それゆえ、薬が環境に与える害についての教育を受ける医師の割合を2010年に75%という目標を立てました。結果としては63%でした。2011年の目標は80%で、この教育はWEBでもできるようになったので達成の可能性が高まりました。

 

有害な化学物質の全廃リスト

化学物質の中には、健康に有害なものがあります。例えば、短期的にアレルギーを起こしたり、中毒を起こす物質や、長期的に発癌性があったり、生殖機能を低下する物質があります。また、重金属や有機化合物は環境に害を与えます。これらの物質を全廃リストに掲載しています。そして2011年までに、この全廃リストの25%の化学物質を廃止することを目標にしています。

 

2010年の成果

レントゲンがデジタル化したことと、設備の消毒液を環境に害の少ない代替の化学物質に切り替えたことによって、全廃リストの化学物質の使用量を2006年比で85%削減できました。

(グラフ図を参照 )

(各年に購入した全廃リスト掲載の化学物質の量)


(使用しているランステイングの全廃リストの化学物質の数)


  1. グリーン購入
    2010年の目標は、製品購入の際に、製品に含まれている化学物質の情報を要求することでした。それによって、PVCを含む製品購入を削減し、エコロジカルな食品を増やし、廃棄物のリサイクルと再使用を増やすことを目指しました。

  2. PVCを含まない医療製品の購入率の向上
    医療製品によってPVC製品の廃止目標値が異なります。例えば、診察用手袋は、PVCを含んだものの購入率は10%で、すでに2009年に達成しています。尿カテーテルは、PVCフリー製品が20%の目標でしたが70%近く達成しています。ただし、カテーテルの場合は、PVCフリーの製品が入手しにくいため、目標率が100%ですが、60%までしか達成できていません。2011年末には、メディケアというサプライヤーが、製品の全てがPVCフリーになるよういろいろな対策を行う予定になっているため、カロリンスカ大学病院の目標も達成できるとみています。

  3. 病院の医師、看護士、職員の環境意識を高める
    ランステイングは、病院で働く医師、看護士、職員の環境意識を高めることが病院における環境問題を解決するために、またどのようなチャレンジがあるかを理解するために重要だと考えています。それゆえ、ランステイングが開発した環境教育をできるだけ多くの人が受講することを目標としています。カロリンスカ大学病院の2010年の目標は、受講者率が60%でしたが、結果は約56%でした。2011年はウェブでの環境教育を始めたため、受講しやすくなると見て14,000人、約93%が基礎かステップアップ講座を受講することを目指しています。

  4. その他
    掃除は、ISS ABという清掃会社に委託しています。

 

成功の秘訣

カロリンスカ大学病院の環境管理担当者のスティーナさんと環境部長のグスタブさんに、カロリンスカ大学病院の環境対策の成功の秘訣と、今後の課題について伺いました。

成功の秘訣は、環境マネージメントシステムのISO14001が機能していることが大きいと答えました。また病院で働く人全員の環境意識が高まったことも成功の要因だと考えています。環境に関する知識を皆が積んでいくことが大切だと話してくれました。

上から言われるのではなく、個々が自分のそれぞれの職場で環境対策ができるどうかが成功の鍵になっていると二人は語りました。

カロリンスカ大学病院の環境部では、地球温暖化問題の対策にも、1人1人が簡単に参画できるような、省エネのプロジェクトを企画しています。その一つに、WWFのアースアワー(夜8時半から1時間、照明を消す運動)に参画を呼び掛ける企画がありました。

 

今後の課題

最近、テレビ・新聞のニュースで、スウェーデンで使用している抗生物質の一部がインドで製造されており、その製薬工場の近くで、抗生物質が効かない菌が発生したと言っていました。その菌が、製薬工場の近隣だけでなく、海外にも広がり問題が拡大することが危惧されていました。

抗生物質の過剰な使用によって抗生物質の免疫を持つ菌が発生する問題は、今や国際問題になってきているため、カロリンスカ大学病院でも、今後どのようにこの問題に取り組むかが課題となると語っていました。

「医療における一番大きい問題は、薬と化学物質です。」とスティーナさんとグスタブさんが取材の冒頭で話してくれたことが良く理解できました。

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